じゃあ、テスラの挑戦

少し前にテスラの将来について記事にしましたけど、要点は三つに分けられることを改めて思いました。

単に自動車メーカー、というカテゴリーに入れると、世界中、すべての自動車メーカーの時価総額を足しても、150兆円規模しかなく、これが爆発的に伸びていくとは考えづらいです。中国、インドが底上げすることで自動車を欲しがる人が増えても、先進国で持たない生活が普及することで自家用車普及率が下がったり、自動車の耐久年数が長くなり売れなくなることも想定されるからです。

世界一の時価総額を誇る自動車メーカーはトヨタ自動車、時価総額は20兆円程度であり、テスラは5兆円を超えてGM、フォードという同国の老舗企業を抜いてしまっているので、単に自動車メーカーとしてだけテスラを見るなら、たった年間数十万台しか生産できていない企業としては明らかに割高です。

そうではなく、テスラを世界に革命をもたらす企業だという期待がある為、ひたすら繰り返される目標未達を無視して、株価は勝ちあげます。そして、マスク氏はとんでもないスケールの夢を語り、良識的に見える一般人が熱狂の渦に巻き込まれていきます。特に機械いじり、航空宇宙なんかに興味がある男性エンジニアが入れあげている印象です。

前置きが長くなりましたが、テスラが期待されている点を三つに分けて記事にしたいと思います。

自動運転

まずは自動運転です。人類の夢である自動運転ができたら世界は変わります。私は自動車の運転が好きではなく、仕方なく自分で運転するだけで、他人が運転してくれるなら頼みたいし、公共交通機関が使えるなら、それを優先させるくらい自動車に興味がありません。

そして、自動車の運転はレーサーみたいな特殊な職業を除けば、誰でもできることであり、多少の甲乙はあるにしろ、何の付加価値もないことだと思っています。料理も同じことでトップレベルの料理人、それ自体が面白いと思う趣味の人を除けば自動になればいいと思います。料理はインスタント食品、半自動化が達成できているのだから運転だって何とかならないの?という気持ちになりますね。

しかし、料理はさほど危険なことではなく衛生問題さえしっかりすれば、人間が死に至ることはありません。仮に食中毒になっても特殊なケース以外では死にません。でも、運転はかなり気を付けても人間が死に至ることがあります。どんなに運転が上手くても、歩行者が飛び出して来たら避けられないことはあります。

テスラ、マスク氏は自動運転で革命を起こす、と言い切っていますが、実務部隊のエンジニアは「ちょ、待てよ」と言い返しており、自動運転のレベルはいくつかの階層に別れ、部分的には自動制御が可能になっているが、マスク氏が主張する完全自動運転の目途は全然立っていないのです。

自動運転の試みは世界中で行われており、シンガポールは交通状況の統制が取れており、政府の力が強大ということもあり、MITと中心としたアメリカ勢もシンガポールに来ていますが、大きな成果を出すには至っていません。突発的状況の変化に対応できないからです。

自動生産

次にテスラは物価が世界トップクラスのカリフォルニアで生産すると言っています。それはロボットによる無人ラインを設置するからであり、単純労働者が消滅し、ラインマネージャー、メンテ、などしか必要ないので、人件費は関係ないんだ、といい張っています。

しかし、現実はそんなに甘くはなく、ロボットメーカーもテスラの要求に合うだけの供給はできておらず、実質的にはかなりの単純労働者が生産に携わっているそうです。去年の年末、マスク氏はクリスマス休暇返上で工場にべたづきしたそうです。

これも、単純労働者は人間がするのをやめようよ、という製造革命を起こそうとしているわけで、成功すればとんでもないことになります。先進国は製造ラインを自国に取り戻すことができます。製造が戻れば、雇用は確保され、経済が回りますからすごいことです。

EV化によって部品点数が減るにしても、自動車ほどの複雑な機構をした製品が完全自動化された例はありせん。既存の自動車メーカーは半自動くらいがせいぜいです。ロボットが増えるにしても、大量の期間工を雇って対応しており、人の手が最低限になるなら、本当に革命的な工場になるでしょう。

電池革命

EVというのは理想です。排気ガスが一切出ないので、グリーンテックによって作られた電気で自動車が安全、快適に動くなら、世界の環境はかなり改善されます。エコというテーマはお金になりますし、各国政府も補助金を出して援助しています。

発展途上国は排気ガスで青空が見えないくらいです。ディーゼルエンジンによって欧州の空は汚された、と言います。もちろん、自動車の排気だけが環境汚染になっているわけではないですが、一つの要因が消えることで大きな進歩となることは確実です。

しかし、現段階でコスト、耐久性、量産性のある自動車用電池はありません。パナソニック(旧三洋)の電池はマスク氏に評価されており、一社購買となっていますが、5分充電で一日は走れるとか、一晩充電で一週間は走れる、という性能のものではありません。そして、まだまだ価格が高いです。

電気を扱う各社がしのぎを削って電池開発をしていますが、今のところ、革命的、ブレークスルーになるような開発はできていません。それをテスラができるのではないのか?という期待感もあるんですが、今のところ、何かしらの方法で突き抜けるような何かはありません。

まとめ

三つの内、どれでもいいので一つやり遂げられるなら、テスラは自動車メーカーという枠を超えた支配的企業になるでしょう。そのノウハウは他の業界に進出していき、ジャカジャカと富を奪えるような圧倒的存在になるだろうと思いまうし、そう信じているから株主がついてきます。

実際、マスク氏は他にも事業を持っていますし、テスラが起点になって、交通革命、宇宙開発、とか、とんでもない大きな夢が一つずつ繋がっていき、ワクワクするような世の中になっていくだけの力があるのかもしれません。しかし、今のところ、数字はついてきていません。

ともかく、弾(汎用車、モデル3)を込められるなら撃つことは出来る勢いがありますが、弾を用意できない可能性が高くなりつつあり、そうなれば、資金が回らなくなります。とにかく、生産体制が整わないと、どでかい夢を追っていけなくなります。マスク氏は危機を乗り越えられるのでしょうか?

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かりりん
6 years ago

確かにテスラは思ったようには自動運転の普及が出来ていないのが現状ですね。
自動運転中の事故がマスコミでも話題になったりしていますが、そのほとんどは予測不可能な突発的な事故がほとんどのようです。人間が運転しても、避けることが難しい突発的な事故になり得ることはありますが、対コンピューターとなると、一斉に批判が集中しますね。対人間よりも、批判しやすいのでしょう。

Model 3 は最近はさほど話題に上ってきていませんが、スペースXの話題は活気があります。
私の自宅から、スペースXの試験的打ち上げがよく見れます。
特にその時間にあわせて空を見ている訳ではありませんが、自宅のパティオでお茶している時などに、ふと目にすることがありますね。たまたま運が良かっただけだとは思います。

マスク氏はいろんな夢を語っており、前例にこだわることもなく、机上の空論だけにせず、とりあえず資金を集めてやってみよう!マスク氏なら何かやらかしてくれそう!と思わせる、エンジェル投資家が後を絶たないように思います。

女性から見ても、十分に魅力的な男性で、何となく映画のIron Man 主人公を彷彿とさせます。
私もマスク氏は応援したいですね。でも彼の成功は、日本の更なる衰退を暗示しているようなものでもあるので微妙なんですが。。。

そういえば、テスラで一時期働いていた日系人の方の話だと、とにかく休日、祝日関係なく、しかも無理な要求をマスク氏から直々にオファーされることはザラにあるそうです。ある時、テスラの工場建設がほんの少しずれ、不足している資材調達が間に合わない旨を報告した際、電話で「すぐに来い」と、気づけばすでに飛行機の予約が既に行われており、数時間後にはカリフォルニアからNYへの便に乗って、マスク氏とのミーティングに向かっていたそうです。(その時、マスク氏はNYにいたようです)。ミーティング自体は2時間ほどで終わったそうですが、かなりの叱責にあい、出きなければクビ!と言い渡されたそうで (苦笑) で、すぐにカリフォルニアへとんぼ返りという。。。

結構、社員は大変なようです。

それを聞いて、私はテスラで働きたくないな。
ただの傍観者、応援くらいにしておこう!と思いました。(笑)

1+
Aki
6 years ago

>特に機械いじり、航空宇宙なんかに興味がある男性エンジニアが入れあげている印象です。
シンさん、まさにこれです。
うちの夫をはじめ、周りの同じような人たち。

私も仕方なく運転している人間なので、自動運転が発展するとありがたいと思っています。
ベンツもEVトラックを発表しましたが、ベンツの乗用車と業務用車(トラック、バス、バン)を作る部門の人たちのカラーは全然違うんだそうです。
業務用車部門は、エンジニアの力が断然強いらしく、実際、ベンツの業務用車は本当に運転しやすいです。
ノウハウや今まで貯めて来た情報で、この部門が本気を出せば、テスラのトラック技術はすぐに抜いてしまうかもしれません。乗用車部門はまだまだでしょうね。時代遅れな社内政治好きなおっさん達はいつまで経っても口だけの気がします。

単純作業はロボットにさせる、っていうのも、本当に早くそうなってほしいです。
料理は自分で言うのもなんですが、レシピさえあれば、ある程度のものは何でも作れる自信はありますが、できれば、どんどん手抜きしたいです。栄養面も考えると、正直、とくにあれこれ手を加えず、旬のものをそのまま食べるのが、時間も労働も必要なく一番かなと思うようになりました。

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ニコ
6 years ago

私もシンさんと同じで運転があまり好きでなく、疲れた日や眠い日は運転したくないですね。
運転の自動化に期待します。

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ナマケモノ
5 years ago

モデル3生産量未達で、ここ最近で株価は20%以上の急降下をしてますね。自動車を簡単に大量生産出来るとは思わないので、この機会にさらに株を買い増しているものの、見通しは不安定ですね。
それでも、彼ほど魅力的な方向性を示している経営者は他に見当たらないので、アイドル感覚で、引き続き気になる存在です。第2のテスラにあたる会社も、出てきてくれたら、競いあってもっと面白くなりそうですね。

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ナマケモノ
Reply to  シン
5 years ago

結局、ドキドキワクワクに弱いんですよね。先日記事にされていた奥崎謙三氏(まだ怖くてDVDは観れていませんが)なども、違う切り口でのドキドキ感がありますし、不安定なものを求めるのは、人間の習性なのだと思います。

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dw
5 years ago

宇宙航空産業って、儲かるんですかね?将来的にそんなに可能性があるんでしょうか。
資金のほとんどは国が出しており、現在やっと投資家がお金を出し始めました。
収益化するまでに相当の時間がかかると思います。宇宙からそんなにお金になるようなものを引っ張ってこれるんでしょうか?イメージがつきません。

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ニコ
Reply to  dw
5 years ago

dwさん
おそらく、基礎研究やインフラみたいなものかなと私は考えてます。
NASAやJAXAみたいな国策組織が天才や秀才エンジニアを集めて宇宙の謎の解明や人工衛星といったことをやっているのではないでしょうか?
儲けとしては赤字でしょうね。

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かりりん
Reply to  ニコ
5 years ago

昨今、NASAの予算が大幅削減された分、プライベート企業での宇宙開発に期待が集まり、そこに投資家も投資をして、一緒に夢を見る みたいなことが現実にあります。
もちろん赤字なんですが、一部 税金対策の面も大いにあると思います。

日本人にはこういったタイプの投資家はほとんどいないんじゃないでしょうか?

私は1か月から2か月に一回程度、自宅からスペースXのロケット実験打ち上げを見れるのですが、見るたびになんだか、なんとも言えない気持ちになります。ネガティブな気持ちではなく、壮大な気分になるというか。

そういえば、アメリカでは普通にテスラが走っているを見かける機会が結構多くなってきました。
息子の車がModel 3 なのですが、バッテリー充電のためにスペースXの工場に最近立ち寄ったことがありました。普通に一般人に開放していて、スーパーバッテリー充電機が10台ほどあり、充電するのに10分もかからず早かったです。

今や一部ミドルクラス、アッパーミドル、アッパークラスのスタンダード車がテスラになりつつありますね。日本ではどうなんでしょう?

2+
dw
Reply to  かりりん
5 years ago

ニコさん、かりりんさん

ありがとうございます!
宇宙とは不思議ですね。何か眠っているような気がします。HUNTER×HUNTERの暗黒大陸のようなものでしょうかw

自分はいつもリアリティや実現可能性などを考えてしまうので、そういう夢にぶち込める人が羨ましいと思う時があります。

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nobubu
4 years ago

テスラのAPは、規制が甘いので、他社より縛りが弱く(安全性軽視)、不完全でも利用できてしまうので、他社より先行していると思わせているとしか思えません。結局のところ、安全な自動運転レベル2も達成できていないことになります。
また、ハード面もしょぼく、ミリ波レーダーは前方一つしかなく、前方以外はカメラで障害物を検出しています。
いわゆるAI(画像処理と機械学習)で自動運転を達成しようとしていますが、技術的にAIだけで複雑な処理は人間の判断力を超えられないと思います。また、カメラによる画像処理とAI処理は処理時間がかかり、現時点で1秒程の処理遅れが発生してように見受けられます。このような状態では、安全で高度な自動運転は実現できません。
現に、一番簡単な高速道路でのAPによる事故も非常に多く発生しています。一般道では、危なすぎて使い物にならないレベルです。AIの機械学習が指数関数的であれば、数年でプロドライバーを凌駕する自動運転が達成できているはずですが、実現できていないので、このAIによるアプローチは、進化が遅いもしくは、実現ができないと思われます。
高度な自動生産も難しいです。小さくて軽いものであれば、まだ自動化も可能ですが、大きくて重いもので精度が必要なものは、部品ごとの誤差で微調整が必要となり、単純繰り返しの機械では、実現が難しいですし、コストも莫大になります。
半自動化が合理的です。
電池革命に関しては、全く革命していませんよね。既存の燃えやすい一般的で安価な18650系の円筒セルを7000本近くまとめただけのバッテリーパックです。セルが変形するほどの衝撃が加われば、セル内のセパレーターが破損し爆発的に発火する危険なものです。国内自動車メーカーでは、危なすぎて、採用しない代物です。モデル3も同様の2170セルが使われていると思われます。
しかも、充電管理は70本単位で単純に並列接続しており、ノートPCなどのバッテリーのようにセル一個ずつ監視するシステムにはなっていません。BMSがついていても、セル一本単位での監視は出来ない状況です。初期不良品があっても検出できるかは疑問です。
テスラの車は、量産品ではなく、本当にプロトタイプ(安全性や性能が不完全)と考えてよいと思います。それこそ、ロケットだと思えば、性能も安全性も申し分ないかもしれませんね。

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