じゃあ、潜行三千里

読者さんからお勧めの本を紹介して記事にして欲しい、というリクエストがあったのでシリーズ化します。ボリュームもあるので、一記事では長くなりすぎると思います。

[amazonjs asin=”4901622897″ locale=”JP” title=”潜行三千里 新書版”]

記念すべきお勧め本の第一弾は辻政信、潜行三千里です!これはマジかよ?というほどスリリングな冒険体験本でフィクションじゃないのか?と思うくらい波乱に富んだ展開が繰り広げられますが実話です。CIAの調査で概ね事実だと認定されているようですし、単なるフカシ本ではありません。(落合○彦さんみたいにどこまで本当なのかわからない話ではないのです。)

天才、神様、鬼才、絶対悪、と称される辻政信さんは旧日本帝国陸軍参謀です。第二次世界大戦における日本軍の作戦に深く関わっており、彼が作った歴史もいくつかあり、功罪は未だに定まっておらず議論は継続中です。

この男は貧しい家に生まれ、お金がかからないから陸軍幼年学校を目指し、何とか補欠合格で入り込むところからキャリアをスタートさせて、幼年学校、士官学校を主席卒業し、陸大は第三位、恩賜の軍刀組(天保銭組)です。陸大三位はあまりにも過激な辻を陛下の前で演説させられないという理由で主席にしなかった、という話があるくらいです。

心酔していた石原莞爾と同様に、辻に詰め寄られると上官だろうが、年次が上だろうが、従わざるを得ないような人格的迫力があり、かなりの独断専行を繰り返しながらも順調に昇進を続けています。政治力に優れ、転属するとすぐに経理台帳を調べ上げて上官の怪しい経費を見つけ、証拠を確保したり、軍人皇族に近づき、その威光で何もいえなくなる環境づくりをしていました。

事件

辻は上記のように日本の歴史を変えるような大事件を何度も起こしているのですが、代表的なものをいくつか紹介します。

・ノモンハン事件

外モンゴルでロシア軍と対峙した日本軍は辻の誘導で正面衝突、大本営からの中止命令を無視して戦争を続行、大損害を出しましたが、強引に作戦を継続しています。捕虜交換で戻ってきた上官に自殺を強要したとの噂があり、薄ら寒くなるような鬼です。

[amazonjs asin=”4901622919″ locale=”JP” title=”ノモンハン秘史 新書版”]

・マレー作戦

兵站の確保に絶対必要なシンガポール占領を目指して、タイ国境を通過してマレーシアに上陸し、凄まじい勢いで南下してシンガポールを目指します。この作戦を立案したのは辻であり、日本軍の快進撃を支えます。

そして、未だにシンガポールの日本人が中華系シンガポール人に指摘されると黙ってしまう「シンガポール華僑粛清事件」を立案したと言われています。実際、シンガポールの赤化は進んでおり、反日スパイが多数紛れ込んで、なかなか収拾がつかなかったそうですが、虐殺に持ち込むとは恐ろしいです。

[amazonjs asin=”4901622412″ locale=”JP” title=”シンガポール攻略”]

・ガダルカナル島の戦い

ここでも実情を無視した作戦を立てて、ジャングルを心もとない武器と兵站でさまよう羽目になり、多数の犠牲者を出したと言われています。この件で辻は自分の作戦失敗を認めず、上官に責任を押し付けていますが、その真相はわかりません。

[amazonjs asin=”4901622358″ locale=”JP” title=”ガダルカナル”]

潜行

ここまで主導的な役割をしていれば、日本が戦争に負ければ、戦犯として両方から追われます。ビルマからタイ、バンコクに敗走し、そこで終戦を迎えた辻は偽僧侶となって潜伏することを決めて失踪します。

ここからが私の好きな潜行三千里のスタートです。せっかくのドキドキわくわくを奪いたくないので、詳しくは書きませんが、ノンフィクションとは思えないくらいはらはらする展開が繰り広げられ、どこに行っても何とかピンチを切り抜けて蒋介石に助けを求めて中国に向かいます。

まとめ

ドキドキするようなスリルが好きな人にはマジでお勧めです。自分が辻になって、ピンチをスレスレで交わしながら、東南アジアを北上して中国を目指すなんて映画の主人公になったようです。歴史が好きな人、東南アジアにかかわりのある人には当時の緊迫した様子と今を比較することも出来ます。

まずは潜行三千里が面白かったら、シンガポール攻略へ移り、辻政信制覇も検討してみてはどうでしょうか?善人なのか、悪人なのか、理想家なのか、虐殺者なのか、正体のわからない不気味な実在の人物の怪しい魅力に取り付かれるかもしれません。

[amazonjs asin=”4901622897″ locale=”JP” title=”潜行三千里 新書版”]
1+
0 0 votes
Article Rating
Subscribe
Notify of

20 Comments
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments
ナマケモノ
6 years ago

早速注文しました!
お勧めされなければ、一生手に取らなかった類の本です。古典文学が来るかな?と思っていましたが、いつも良い意味で期待を裏切ってくれますね。読んでからコメントします。

0
ナマケモノ
Reply to  シン
6 years ago

著者が中国に入ったところまで読みました。印象深い言葉がたくさん出てきますね。

タイ人が、敗戦国ドイツのことを、染料・剃刀の質の良さ、人格の良さを讃えて、世界一の国だと評する場面があります。著者は、軍備なき日本が将来世界で活躍するには、この観点が必要だと真っ直ぐに思うわけで、このような率直な主人公気質が随所にみられ、面白いです。
また、華僑の賢さやたくましさは凄すぎて、こちらも学べる点が多いです。

個人的にはスリルを楽しむ娯楽本というより、啓発本や哲学書のように人生に役立つ類の本だと思います。

0
かりりん
6 years ago

私も読んでみようと思います。
歴史に沿った、ノンフィクションや半フィクションもの好きです。

これでちょっと思い出したのが、故山崎豊子さんの ’二つの祖国’です。
すごい昔の大河ドラマ ’ 山河燃ゆ’ の原作本です。
日系アメリカ人、太平洋戦争、東京裁判 が軸となった作品です。

0
Y
6 years ago

かりりんさん
私はかりりんさんにアダム・ファウアー作の「数学的にあり得ない」というサスペンス小説をお勧めしたいです。準主人公のナヴァが私が想像するかりりんさんの人物像にはまっているんです。(実際に登場人物が行っていることではなく、生き方、哲学などについて)かりりんさんが読んだら絶対にナヴァを自身に投影させてしまえるのではないでしょうか?
随所でちりばめられる少し難解な統計学、量子力学についても記述もリケジョのかりりんさんなら興味を持って読み進められるはずです。

0
かりりん
Reply to  Y
6 years ago

Yさん

面白そうな作品ですね。
読んでみたくなりました。
早速購入してみます。

ありがとうございます!

0
@@@
6 years ago

この紹介記事を読むだけで雰囲気が伝わってきます。
私も早速読んでみます。ご紹介ありがとうございます!

>かりりんさん
 「山河燃ゆ」はドラマを観ていました。
最近原作の上巻を読みましたが悲惨過ぎて下巻は読んでいません。西田敏行の演技と、沢田研二の「今日は・・アンラッキーだぜ」をもう一度観たいのでDVDを買おうか迷いました。

0
@@
Reply to  シン
6 years ago

読みました。のっけから手慣れた小説家の様な文体で意表を突かれました。実録本的な雰囲気を予想していたら文章を書きなれた人の様で、それが逆に怪しさを出してる感じもありました。ほんの数十年前の世の中がこんなだったのかというのが重かったです。今の生活環境は快適すぎて、私にはとても生き延びれる気がしませんでした。
 一斉摘発・収容を逃れて脱出する夜のシーンはとてもスリリングで面白かったです。wikiに、人たらしな半面自己中心的で気性が激しいような事が書かれており、それを意識して読んでしまうと、自己装飾的な文体がちょっと鼻につく気もしましたが、内容は面白かったです。
 こちらで紹介されない限り手に取る事はなかったものなので、読む事が出来て良かったです!ガダルカナルはこれまで色々な作品に取りあげられていて私も関心が高いので、この作者の書いたものを読みたいです。シンガポール攻略に収録されているのでしょうか?

0
@@
Reply to  シン
6 years ago

それは楽しみですね!是非読みたいです。

ガダルカナルもご紹介ありがとうございます。

0
ニコ
6 years ago

面白そうな本なので読書メーターに加えます。

0
MK
6 years ago

シンさん

はじめまして、MKと申します。
こちらの記事で『潜行三千里』を知り、読んでみました。

読んでいて、著者のコミュ力、度胸、洞察力、知識、心と身体のタフネス……とにかく凡人を凌駕した能力の高さに羨ましさを感じました(笑)。こういった、歴史に残るような人の実体験を読むのは本当に刺激的でおもしろいですね。すごい人の思考のあり方を具体的に垣間見ることができる感じで、興味深いものです。ベンジャミン・フランクリンの自伝なんかも、彼自身の筆で体験が書かれており、本書と似たような思いで没頭して読んだ記憶があります。

あと、本人が書いた本ではないので話題から若干それますが、『毛沢東の私生活』という、毛沢東に22年間付き添った主治医がアメリカ移住後に書いた本があります。身近で大人物を観察した内容であり、その規格外さがこれでもかというぐらいに書かれており、めちゃくちゃおもしろかったです(中国国内でこの本を嘘っぱちだとする反論が出たこともあるのですが、おそらくこの反論は政治的な理由から出たものでしょうね)。毛沢東は史記や孫子、老子などを通じて学んだことを実践しているなと感じました。『潜行三千里』が肌に合うか、あるいは中国史の人物伝が好きな人ならば、きっとはまると思います。

ところで、私が10代のころは小説なんかも楽しく読めていたのですが、近頃は小説そのものにほとんど楽しさを感じられなくなってしまいました。娯楽の面で考えると、文章が動画や画像に勝っているのは、人物の頭の中の思考を細かく描写できることにあるのでしょうが、その思考が普通の人とあまり変わらないというか……。刺激が足りなく感じてしまいます。

私のような凡人がこんなことを言うのも生意気ですが、古典作家は別にして、小説で生計を立てられる人というのは、確かに小説を書くことに関連した能力値は高くて、その点で凄いことは間違いないと思うのですが、小説を書くのに関連しない能力であったり、それまでの実体験の幅であったりに関しては、普通の人と大差がないということなのでしょうね。まあ、私の感性が劣化しているだけかもしれませんが(笑)。

以上、長文失礼しました。

1+
丸山和仁
4 years ago

この人の手記を面白いなどと言うのは 日本国民として悲しい
もっと勉強してください

0
20
0
あなたのご意見、ご感想をお待ちしています。x
タイトルとURLをコピーしました