じゃあ、脱獄

少し前に逃走、という記事で市橋受刑者の記事を書いて、それを見たであろう読者さんが脱獄について、計4回脱獄した世紀の脱獄王、白鳥由栄氏について書いて欲しい、とリクエストを受けました。あまり資料がないですが、「破獄」という小説があるのでこれを読前、読後の二回に分けて書こうかと思います。その方が想像を掻き立てれるので小説に入り込めると思います。

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生い立ち

白鳥さんは明治時代末期、青森生まれ、豆腐屋に養子に行き家業を継いでいたそうです。これを聞くだけで彼の生まれ育ちが想像できるような気がします。戦前東北は本当に貧しく不作になれば娘を売って生計を立てるような貧民が多かったそうです。

二・二六、五・一五事件はそんな東北不作、地震による悲劇を嘆き、貧富の差を是正しようとして青年将校が蜂起した事件でもあります。戦後のインフラ整備、モータリゼーション、農作物の品種改良が進む前は東北は東京とは別世界だったのでしょう。

それに加えて、古今東西、養子が辛い目を見るのは共通です。幼いながらに親に甘えられず、人目を気にして我慢することが多かったでしょう。また、豆腐屋は早起きで凍えるような寒さの中で手を冷水に入れて作業するのです。冬は常に皸で手が真っ赤になって傷だらけになった姿が思い浮かびます。

そんな環境だと、品行方正で過ごすのも難しいでしょう。長じるにしたがって徐々に素行が悪くなってつまらないことをしだすのも理解できなくはないです。そして、つまらない悪さが止まらなくなって強盗殺人まで犯してしまうのです。

今に残る写真を見ると、無骨だが優しそうな感じの白鳥さんが想像できますが、失礼をして敵に回したら瞬殺されそうな面構えです。心に寂しさを抱えた超人みたいな人、その心の隙間に心無い言動が突き刺さると、狂気の行動に出てしまう、というところでしょう。

義理

しかし、この白鳥さんは悪の道に染まった極悪人と言うわけでもなく、自分なりの義理があって、その道から外れることはしないみたいです。共犯者が別件で捕まってことで自首して逮捕されます。白鳥さんに殺された被害者もかなり非道なことをしていて義憤に駆られたような側面もあったのかもしれません。

入った監獄では人権は無視されており、「お前のような人殺しは死んでしまえ!」とたんを吐きかけられるような有様で、怒った白鳥さんは脱獄を決意します。戦前、犯罪者に対する人権など完全に無視されていたいい例であり、こういう心無い接し方が再犯率を上げてしまう、という例ですね。

この後、何回か脱獄をするんですが、その理由は人権無視した待遇に対する報復みたいなもので、あまり本気で逃げる気がなさそうです。だから、数日から数ヶ月の間に何かしらの理由で捕まっています。脱獄されると、担当看守は懲戒免職だったみたいですね。

だから、最後に収監された府中刑務所では一般受刑者と同じように待遇を処す、という方針が徹底された為、脱獄を止めました。自分がした犯罪に対する咎を受けることは納得しているが、人権無視をされる謂れはない、ということなのでしょう。ある意味で徹底しています。

スペック

  • 1日に120kmもの距離を走ることができた。網走刑務所では手錠の鎖を引きちぎるという怪力ぶりも見せており、その結果重さ20kgもの特製の手錠を後ろ手に掛けられることとなった。
  • 地中深く突き立てられた煙突の支柱を素手で引き抜き、40歳を過ぎてなお、米俵を両手に持って手を水平にすることができるなど、その怪力ぶりは群を抜いていた。
  • 身体の関節を簡単に外すことができる特殊体質を持っていたとされ、頭が入るスペースさえあれば、全身の関節を脱臼させて、容易に抜け出したという。

とウィキに書いてありますが、これが本当なら完全に超人です。フィジカル系の陸上競技で世界を狙えるレベルの逸材だと思います。それに加えて忍耐力、戦略性を持ち合わせているのですから、努力をする方向さえ間違っていなければ、日本を代表するようなスポーツ選手になったでしょう。

私は白鳥さんは心に闇を抱えてしまった室伏兄貴みたいな人を想像しています。寡黙でガチガチの肉体を持っているだけでなく、頭脳明晰、本質をズバッと捉えられるだけの感性を持ち合わせています。脱獄経路なんて、まったく無駄のない最短ルートを選択しているので、看守が漏らす何かしらのわずかなヒントでシュミレーションが頭に出来ていたのでしょうね。

まとめ

「破獄」を読むにあたって、いくつかの点を考えたいと思っているのですが、まずは1)超人白鳥の脱獄劇、2)戦前日本の人権環境、3)人と人のふれあいによる邂逅、という点です。単に面白い冒険小説とは違った味があるのではないか?と思います。

残念なのが白鳥さん本人が書いているわけではなく、吉村昭さんが看守への取材によって書き上げた二次資料であることです。私は一次資料が好きなので、どこまで楽しめるかわかりませんが、読み進めたいと思います。

面白いテーマですが、あまりにも情報がないので、深いところまで突き詰められません。何か良い資料を知っている人がいたら教えてください。

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ニコ
6 years ago

面白そうな本の紹介ありがとうございました。
早速、読んでみます。

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6 years ago

リクエストに応えていただきありがとうございます。
私の白鳥のイメージは、「黒い両津勘吉」ですね。
豊かな創造力と、喧嘩っ早さ、無尽の体力などが共通しています。
それらが全て悪い方向にしかでなかったのが残念です。
もう少しよい環境なら一角の人物になってたかもしれません。

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