じゃあ、日星一般家庭

日本とシンガポールの一般家庭比較記事依頼を受けました。シンガポールの一般家庭って誤解を受けていることも多いので、実像に迫りたいと思います。

収入

シンガポールの方が日本よりも収入が高くなった、というイメージがありますが、実はそうでもありません。例えば、30前後の大卒者(高専卒)なら、どちらも年収400万円くらいです。何が違うかと言うと、シンガポールでは共働きが当たり前なので、世帯収入が違う上、収入の男女差が小さいことにあります。

日本では年収400万円(夫)年収200万円(妻)のように妻がパート、契約社員としてフルタイムで働かず、家事育児を全般に担っている家庭が多いですが、シンガポールでは年収400万円x2となるので、日本の一般家庭よりも世帯収入が多くなるといっていいでしょう。

また、シンガポールでは格差も大きいので、やり手だと30過ぎにはマネージャーになり、年収1千万円以上もらっていることがそれほど珍しくもなく、そこから30半ばにはGMとして年収2千万円、40過ぎには経営者として年収5千万円、というようなこともざらにあります。日本だと、そんなハイペースで駆け上がるのは外資勤務、スタートアップ勤務くらいでしょう。

逆にシンガポールの下層だと世帯収入200万円x2とか、ありえますし、子沢山のマレー系だと200万円x1ですらありえます。なんでそんな収入で暮らせるかと言うと、親の家にみんなで住んでいるからです。シンガポールは不動産を除くと、生活必需品に関してはそこまで高いわけではないので、何とか成るのです。

不動産

シンガポールの物価は不動産の高騰から来ており、逆に言うと不動産さえあるなら、そんなに高い国でもありません。日本人家庭がシンガポールに移住して日本並みの生活を送りたいなら、何倍も収入が必要だよ、というのは不動産を持っていないからだと言っていいでしょう。

上記のように多くのシンガポール人だって、そんなにガツガツ稼いでいるわけで不動産の高騰は悩みの種なんですが、彼らは政府から公団住宅を買う権利があり、結婚したら申請に行き、2年後くらいに入居します。つまり、見込み需要でなく、応募を確定してから公団を建築するので無駄がなく建てられるわけです。

低収入家庭には補助がつきますし、積み立て式年金(CPF)を利用して格安の金利で借り入れできますので、シンガポール人なら誰でも家を買うことが出来る、ということで、ローンがきつくても、働いてさえいれば、年金支払いがそのまま住宅ローンに行くので耐えることが出来ます。

価格としては日本と大体同じくらいのもので、3000-5000万円(3LDK)くらいだと思ってもらえばいいです。最近のHDB(公団住宅)の質は上がってきましたが、それでも日本の分譲マンションと比べるとつくりの甘い、残念な建物ですね。古いものになると、日当たりが悪く、レイアウトがメチャクチャな薄暗い物件も少なくありません。

この制度が外国人には原則適応されないので辛いわけです。厳密に言うと、外国人夫婦両方が永住権保持者であれば、条件付きでHDB(公団住宅)を買うことが出来るのですが、政府からの補助がなく中古市場から割高で買う必要がある上、色んな制限がかかり、その制限もコロコロ変わるので極めて買いづらい状況です。

その永住権もリーマンショックが発生する頃から発給制限がかかるようになり、なかなか取れなくなっていますし、特に中国系以外の現地社会にあまりなじまない外国人には与えないようになってきています。日本人だと、よほどの高スペックだったり、シンガポール人配偶者がいないと取れません。

そうなると、外国人は無理してコンドミニアムを買う必要がありますが、これは1億円からに成るので、これをクリアしようとすると、日本の倍くらいは最低収入がないと同じ生活は出来ないよ、と言う話になるのです。1億円の物件を買いたいなら、世帯収入は一千万円以上は確実に要ります。

教育

「保育園落ちた、日本死ね!」ではないですが、シンガポールでも未満児を預かる施設が不足しており、リー首相も速やかに解決すべき課題の一つに上げて取り組んでいます。東京よりはマシですが、家から歩ける範囲に保育園を見つけるのはかなり困難です。価格も日本と同じくらいで5-6万円/月、という感じです。

公立小学校はタダ同然ですが、これはシンガポール人に限ったことで、外国人は外国人料金を払わなければならず、4-5万円ですね。こうなると、日本の私立校、日本人学校とさほど変わらないと思います。

割高な学費を払うだけでなく、近くの学校に入れることはなく、外国人の抽選は最後になる為、外国人がローカルスクールに行く=地域で最も評判が悪く、不便な場所にあるため人気のない小学校に行く、と言うことになります。純日本人家庭なら、日本人学校を選ぶのが無難だと思います。

ここでインターナショナルスクールに入れると成ると、桁が違ってきて学費は倍、三倍という話になってきます。高いだけでさほどの意味はなく、その質はいいとは思いません。実際、インターナショナルバカロレア(通称IB)で比較してもインターナショナルスクールはボロボロです。最もレベルの高いユナイテッドワールドカレッジ(通称UWC)ですら並みのローカルスクールレベルです。ただ、学費が高いのでそれほど人が殺到しないため入りやすい、というメリットはあるかと思います。

ローカルインターナショナルスクール、というシンガポール政府が外国人、外国人と一緒に教育を受けることを望むシンガポール人向け(シンガポール国籍単独の子供はインターナショナルスクールに行くことが禁止されています。)に教育機関を提供しており、地元の有名校が付属機関としてインターナショナルスクールを持っているのでこれならいいと思いますが、それも高いです。2倍くらいですかね?

ここでもシンガポール人と同じことが出来るなら、それほどの収入は要らないのですが、出来ないので割高な学費を払ってある程度の質を確保する必要があるため、日本の3倍は収入が要るよ、と言う話になります。日本人学校は中学までしかありませんし、高校は高くて、私立文系進学を前提としたシンガポール早稲田しかありません。それ以外だと、日本に帰国させるか、他国に行かせるか、とお金がかかります。

生活

食費はそんなに高いとは思いません。安いスーパーは中国産ばかりで怖いですが安いですし、高いスーパーは適度に付き合えばいいです。日本のスーパー、明治屋ばかり行っていれば、食費はかさみますけどね。他にはCold Storageという割高なスーパーもありますね。無難なのはFair Priceという、シンガポールの労働組合が運営するスーパーで、名の通り公平だと思います。

バス、MRTなどの公共交通機関は安いです。タクシーも安いし、UBER, GRABはシェア争いの為に価格、プロモーションの叩きあいですから、乗り合いタクシーもタダ同然で乗れるので、自家用車に拘ることはなく、必要な時に誰かに運転してもらえばいいと思います。(シンガポール人は自家用車に拘って無理して買いますけど。)

公共料金は政府管轄で無駄なく運営され、一括請求で無駄がなく日本よりも安いと思いますし、年がら年中クーラーをガンガンつけていれば、電気代が数万円になりますが、よほど暑くない限りは扇風機で過ごしていれば、1万円以内で電気、水道、ガス、全部払えると思いますね。これは個人差があります。

保険は働いてさえ要れば、会社が契約する病院、保険が適応されるのでいいですが、無職の人が病気になったら地獄です。これはアメリカと同じで、自己責任の世界です。それでも年金に医療費項目があるし、格安保険(保証は最低限)に入れるのでアメリカほど酷くはありません。

メイド、ヘルパーを格安で雇えるので、子供が小さくて家事、雑用に手が回らないなら外注化して、育児に専念できるので、その点では明らかにシンガポールの方が楽です。共働きでないと生活できない、ということもありますが、母親のみに負担が行くことはありません。むしろ、シンガポール人男性は妻の奴隷として生きていますよw

シンガポール人をベースとした生活をする分にはそんなに物価高でもなく、空気吸うのにもお金がかかる、ということはありませんよ。ただ、シンガポール人ベースの生活を外国人がするにはシンガポール人と結婚する、シンガポール人になるしかないのが難点です。

まとめ

子供のいないDINKSならシンガポールもいいんじゃないか?と思います。シングルは単身者用のアパートがあまりにも少ないので、ある程度の年齢になった時点で辛くなってくるだろうと思います。子供がいると、ころころ引越しできないので家を確保しなければならない、教育問題が出てくるので、割高に払って問題解決する必要があり辛いです。高収入がないなら、何かしらの形で永住権を確保して、夫婦どちらかが日本国籍を捨ててシンガポール人になり、子供の一緒にシンガポール人になってしまうことです。

わたしが知っている限りでは、エリート外国人でも結婚して子供が大きくなると(小学校に上がる前)帰国することは多いですし、そうでない場合は腹くくってコンドミニアムを買って、夫婦片方がシンガポール人になっています。外国人としてずっとやっていくのは得策ではないですね。(ロジャースさん並に大金持ちならその限りでもありませんけど。)

シンガポールでは二重国籍を絶対に許してくれないので、国籍離脱証明を持っていかないと国籍付与されません。でも、シンガポールって「トランジットシティー」と言われるように再移住する人も多いんですよ。だから、片方が元々の国籍を維持して帰国、再移住しやすくするんですよ。

最近、ようやく下火になってきましたが、シンガポール移住なんてよほど限定的なパターン以外は駐在など、期間限定でするものであり、本格的に定住するなんてとても勧められません。余裕なのはリーマン前の外銀で荒稼ぎした人とか、不動産が高騰する前に移住して、シンガポール人に乗せられて投資用物件を買っていた層くらいのものです。

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でら
6 years ago

どうもありがとうございます。深堀り記事、いいですね。

シンガポールに移住する日本人は最近増えていますが、彼らはシンガポールの国籍を取得して永住したいのか、仕事があるから一時的に住んでいるのか、それとも格好いいイメージだからファッションとして住んでいるのか、よくわからないんですよね。

私が考えるに、ガチで永住しようと考えている人はほとんど居らず、男性は仕事のため一時滞在、女性はファッションで住んでいる人が多いように思うのですが、いかがでしょうか。
一時期騒動の中心となった村田女史なんか、典型的なファッション移住ではないでしょうか。しかも日本に居ないから追及されなくて済むというオマケ付きです。

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でら
Reply to  シン
6 years ago

永住組、仕事組には真面目な人が多いと思うのですが、ファッションで来ている人は我儘で気まぐれな人が多く、聞くに値する意見が得られることは皆無なので、シンガポール政府も金を落とすうちは歓迎するけど、そうでなくなったら出て行けと言う姿勢なんでしょうね。

そういうファッション移住組が調子に乗って勝ち組アピールしたり、日本叩きするのは見ていて気分がいいものではありません。

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MDCS
6 years ago

長年シンガポールに住んでいる数少ない男性永住者の一人です。外務省の海外在留法人数調査統計によると、昨年10月現在のシンガポール在住者数37,504人の内、永住者は2,527人ですが、成人男性に限ると331人しかいません。(成人女性は911人、その他は扶養家族だと思われます)

サラリーマンを卒業して以来、個人事業主として契約している日本の会社から時々出張してくる人達と、古くからの永住者の友人・知人以外とは日本人社会との接触はなく、明治屋や伊勢丹には月に一回程度、日本米と日本酒・焼酎を買いに行くだけです。

住宅や車のローンもないのでサラリーマン時代から大幅に低下した個人事業主の低収入でも普段の生活には十分で、時々ある出張のついでを含め、あちこち旅行する以外は引き籠もりに近い生活です。

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