母語の確立が妨げられるケースについて考えることがありました。そもそも、母語という言い方は正しくなく、第一言語というのが正確かもしれません。母親の第一言語と、自分の第一言語が違うことなど、ザラにある時代だからです。ネイティブ、母語という言い方が古いのかもしれません。
私は多言語習得は無理だと思っており、二言語を第一言語話者と同様に扱うことすら極めて難しく、三言語は不可能だと言うだけでなく、なんの意味もないと思っています。いくつも言語が使えることよりも言語が混ざることで何語も満足に扱えなくなることによる弊害の方が圧倒的に大きいと考えます。
家庭
日本で暮らしていると、家庭で話される言葉が日本語でないことの方が違和感がありますが、世界的に見ると、家と外で違う言語を話している人はさほど珍しくありません。移民国家、多民族国家では日常的にみる光景です。
大国の中国、インドはそもそも一つの国として扱うことが難しいほど、地域性による差異が大きく、方言といえないほど、地域によって話される言語が違います。北京語、広東語はドイツ語、フランス語くらいに違うと言われ、素養がないと一切理解できません。広東人が北京に引っ越せば、家と外で話される言葉が違うようになります。
アメリカのような移民国家でも同じことで、親は元々いた国の言葉を家で話していて、子供もそれに倣って話しているが、外では英語を話して過ごしている、というケースは珍しくありません。この場合、子供が大きくなるにつれ、親の手を離れるため、家庭で話されていた言葉は忘れていくのが普通です。よほどこだわりがなければ、必要がないので最低限しか話さなくなります。親と混み合った話をする機会はそうはないでしょう。
人によっては親の第一言語を完全に忘れてしまい、親と身振り手振り、単語レベルで意思疎通をするという人に何人かあったことがあります。親子なので、そのレベルでもなんとなく理解し合えてしまうのだろうと思います。不便だとは思いますが、仕方ないですね。
教育
家庭でどんな言葉を話していても、その国の日常言語、教育言語が一致しているケースはさほど問題にはなりません。ずっと、アメリカで教育を受けていれば、通常は英語が第一言語レベルになります。よほど移民が多い地域で、移民とばかり関わっていなければ、マジョリティに引き上げられていくことになります。
ただ、日常言語と教育言語が違うことは珍しくありません。シンガポールでは英語で教育を行いますが、ほとんどの教員の英語も第一言語話者レベルではない不思議な環境になります。クラスメートも同様に第一言語話者レベルではありません。自然とブロークンイングリッシュを話して生活するようになります。自然には身につかないです。
英語圏外にあるインターナショナルスクールも同様に、教師は英語の第一言語話者であっても、生徒の大半が英語第一言語話者ではない、日常生活はまた別言語である為、校内ではブロークンイングリッシュが通じる子供でつるむようになり、英語力はなかなか上がらず、最悪は授業にすらついて行けなくなる、と言うことが多い事実はあまり知られていません。
家庭で話されている言語とは違う言語を身につけようとすると、その言語に完全に浸る必要があり、家庭外の日々の生活全てがその言語で埋まっていること、6−7年という長い時間が必要だとする研究を見たことがあります。小さな子供だと言語環境が変わっても、半年くらいで話せているように見受けられますが、単に耳が良いので正確に発音しているだけで、現地の子どもと比べ、大きく差があるのが一般的です。
外語
第一言語を確立させた上で、外語として多言語を学ぶのは好きにしたら良いと思います。ただし、言語習得は、ものすごく時間を食うので、言語学習自体が趣味であり、余暇の楽しみとしてやるならともかく、言語そのものをいくら一生懸命やっても、その費用対効果は極めて低いことは理解すべきでしょう。
環境でなく、教育によって身につけた言語は第一言語であっても、外語に近いのかな?と思うことがあります。英語圏で育ったことによって英語が第一言語話者になった人だと、教育レベルは関係なく、アプトプット時の最低限の文法は守られてます。時制がめちゃくちゃな人に会ったことはないです。
強いていうと黒人英語は時制がないですが、(be/ain’tだけ)これしかアプトプットできないとなると、単純作業以外の仕事はできないだろうと思います。標準英語を話せない若い黒人はほとんどいないことと思います。あくまで仲間内の共通語という扱いでしょう。
それに対して教育によって英語が第一言語になった人、例えばシンガポール人だと、教育レベルによって、最低限の文法さえ身についていないことが多いです。アウトプット時の時制はめちゃくちゃ、語順も単語が並んでいうるだけ、語彙があまりにも乏しく、表現が極めて単調、という人も珍しくありません。日々の生活では身につかないので、意識的に良質素材のインプットをしないと身につかないからでしょう。
それでも英語が第一言語であり、その他の言語、北京語なり、福建語はもっと低レベルで話すことはできるが、読み書きすらほとんどできません。読めない、書けないだけでなく、一定以上の専門用語は語彙として持っていないので、簡単なやりとり以外はできないのです。
第一言語のレベルが低いとなると、外語が身につかないだけでなく、そもそもの理解力が下がってしまいます。明確な答えがあり、その筋道がはっきりしているものは良いですが、抽象的な概念、新しいことを上手く自分の理解の中に分類、整理していくことができなくなるでしょう。一つの事象に対する表現をする時に、当てはめるべき選択肢があまりにも限られていると、正確に理解ができなくなると思いますね。
まとめ
未だに多言語教育を賞賛するような人がいるのは、私には理解できません。シンガポールに行けば、英語もちろん、中国語まで身につく、とか言っている人は、本当にシンガポール人のことを深く知っていっていますか?何語も満足に扱えない人が大半だという現実を理解しているのでしょうか?そして、何語も満足に扱えないことで、自分の可能性を制限しています。
シンガポール人エリート層は英語を第一言語話者として恥ずかしくないレベルで扱えます。ただ、北京語はあくまで教養レベルであり、普段の情報収集には使ってません。ほぼ英語を使って生活しています。相手の英語力が不十分なら日常会話レベルなら対応できる、というだけに過ぎません。当然、中国人と高いレベルでやり取りできません。
エリート以外は、エリートが決めたルールの中で、マニュアル通りに動くことしか期待されていません。そもそも自分の意見をまとめて発信するだけの英語力を持っていないので、誰かがすでに用意したフレームの中でしか行動ができないからです。第一言語が弱い、というのは、そういうことなんですよね。
勤務先で純日本人の人が1~2年ほどの欧米駐在経験の後に、よくフランス語だったら上手く喋れるのに、日本語だと難しいと言っていた人がいます。(今は転職されたと聞いています。)
母語がしっかりしていないのに、外国語の方が上手く伝わるなんて、よっぽど駐在先では周囲から気を使われていたんだな。と思いました。
シンガポールの内情は知らなかったので、大変勉強になります。てっきり、平均的なシンガポール人は軒並み英語ペラペラ+家では中国語 ぐらいのイメージしかもちあわせていなかったのですが、魔法なんてなく、ネイティブでなければ外国語の習得に日々時間を費やし努力しているのですね。
そう考えると、外国語を身に着ける際のファーストチョイスは英語が最強ですね。学術や娯楽まで全部カバーできます。変な気をおこさずに、ちゃんと、正しい方向に努力しないと、出口を見失ってしまいます。ハンターハンターのヒソカ×カストロ戦を思い出しました。(メモリの無駄使い)
>ハンターハンターのヒソカ×カストロ戦を思い出しました。(メモリの無駄使い)
母語はOSと言っている人がいました。OSがダメダメならソフトを動かすことはできません。2つOSを一つのPCに入れるとメモリの無駄遣い、齟齬をきたすことが多くなるので良く考えてやるべきだと言うのと同じです。特殊なこと以外は一つのOSでほとんどのソフトは動かせます。完璧ではなくともパッチもあるので、互換性が全くない方が珍しいでしょう。
きちんと整理された情報なら、それが何語であっても工夫できちんと伝わりますが、もともと何が何だかわからない情報を外語にすると、完全に意味不明な宇宙語になる、ということでしょう。
シン
日本で生活するなら英語は日東駒専の大学受験レベルを精読できれば充分かなと思います。セファールB2くらいなので毎日1時間でラジオ講座と文法の参考書と鍛えてます。
後は理工系の専門でイメージをカバーできます。
昇格もして給料も多少上がったので趣味と実益を兼ねてます。
英語だけを極めるのはメモリーの無駄遣いです。
いまDeepLでかなり精度の高い翻訳ができますもんね。
仕事では、周囲の英語話者に気を遣わせるのは最低限で済むような、英語レベルの底上げだけを考え、
専門性を磨くのにリソースを集中しています。
シンさん
日本だと母語以外話す環境がなく、英語を話す環境が日常的にある国がうらやましいなと英語を勉強するたび思っていましたが、弊害もあると知ることができとても勉強になりました。
オンライン英会話でよくイギリス植民地だった国(フィリピン、ナイジェリア、南アフリカ)の方々と話して、彼らは2~3か国語話せるぜ!と自慢気に話していました。
フィリピンであれば、母語(島の方言)、タガログ、英語。
ナイジェリアであれば、母語(民族方言)、英語、フランス語。
英語もつたない私は尊敬していましたが、シンさんの言う通り、どれも満足に扱えていないのかもしれませんね。
大学も英語で習うと言っていましたが、確かにエリート層はその頃に英語で学べるレベルに言語力上がってるかもしれませんが、そうでない人は全然理解が浅いんでしょうね。
>人によっては親の第一言語を完全に忘れてしまい、親と身振り手振り、
そうか、そうなりますよね。寂しいですね。
母語と第一言語が同じで良かったです。
NAGO
>オンライン英会話でよくイギリス植民地だった国(フィリピン、ナイジェリア、南アフリカ)の方々と話して、彼らは2~3か国語話せるぜ!と自慢気に話していました。
フィリピン人はよく知っています。そもそもタガログ、セブアノは口語でしかなく、学術を勉強できるほどの語彙、教材がないです。欧州人が来るまで文字もなかったくらいです。従って、英語でないと一定以上のことは勉強出来ません。その英語力もエリート層はともかく、一般人は口語レベルでしかなく、簡単なやり取りは出来ても、深いやり取りはできない、ということになります。
ナイジェリア人も同じだと思います。
南アは少し複雑で、イーロンマスク氏のように英語が第一言語、家庭でも英語で話す家もありますが、白人系はアフリカーンス語というオランダ語系の口語、各部族の言葉がある環境です。エリート層は英語、せいぜいアフリカーンス語で過ごしており、アフリカーンス語は欧州系なので、英語もある程度は簡単に身につくが、現地系言語は英語と関連性がなく、よほど勉強しないと英語が身につかないのは日本人と同じです。
シン
シン殿
>欧州人が来るまで文字もなかったくらいです。~
>南アは少し複雑で、イーロンマスク氏のように~
ほんとに知識の幅が広くて尊敬します。
マスク氏も移民なんですね。知らなかったです。
いつの日かの記事にあったような気がしますが、移民の起業家はほんと多いですね。
>学術を勉強できるほどの語彙、教材がないです。
語彙がないって致命的ですね。教材は訳せばまだ使えますが、語彙がないと訳せないですね。
日本の教材の話ですが、技術的な専門書はだんだん日本語に訳されなく(技術的な先頭が日本では)なって来た気がします。私の専門だけかもしれませんが、そういった点からも衰退を感じますし、英語使えないと技術者としてもやっていけなくなるなと感じます。
NAGO
>日本の教材の話ですが、技術的な専門書はだんだん日本語に訳されなく(技術的な先頭が日本では)なって来た気がします。私の専門だけかもしれませんが、そういった点からも衰退を感じますし、英語使えないと技術者としてもやっていけなくなるなと感じます。
これは観点が逆だと感じます。今まで専門書すら日本語で手にできていたのが凄いだけで、専門書は英語以外では手に入らない方が一般的です。そのせいもあって日本人技術者は英語を勉強したがらなかったのはあります。専門が細分化して中国語、スペイン語ですら専門書は手に入らないことの方が多いです。
シン
>今まで専門書すら日本語で手にできていたのが凄いだけで、専門書は英語以外では手に入らない方が一般的です。
そうか。そうですね。たった数十年トップレベル?を走って、それをたまたま見ていただけですね。
>そのせいもあって日本人技術者は英語を勉強したがらなかったのはあります。
40代中盤以降のおじさん技術者で英語やらない/毛嫌い人結構いますが、もう全然技術の話できませんね。
JTCでは管理職になると技術やらなくなるのが多いのも影響していそうですが。