じゃあ、私のこと

息子、妻のことの次は、私のことだろう。自分のことが一番書きづらい。

私は、無能な甘ったれたボンボンであり、人には厳しいが、自分には甘い。小心、卑怯、自分勝手、ということは認めざるを得ない。

生まれついた家が田舎の地主であり、惣領息子として育てられた。裕福ではあるが、継ぐべき家業があるわけでもない。親は好きなことをしていれば良い、という教育方針だった。私は、他人と比べて何一つとして優れたものなどなかったが、親から特に何も言われたことはない。

祖父は常々こう言った。「あの土地、この土地はお前のものになる。地元でゆっくり働きながら暮らせば良い。人を蹴落としてまで何かをすることもない」彼自身もその世代としては珍しく、大学を出ているが、サラリーマンすることもなく、地主としてのんびりとあくせくせずに暮らしてきた。

父親は実家から通える高校に行き、大学に行くだけでは飽きたらず、修士、博士、ポスドクと進んで、ほとんど金にならないことをして青春を過ごした。三十近くまでバイトもせず、小遣いをもらって過ごしていた。流石にプータロー状態にも嫌気がさしたので、ダメ人間受け入れ施設、と言える教員になった。本人によると、今と違い、二ヶ月くらい集中すれば、教員採用試験は誰でも合格できた、とのことだ。

その教員生活も必死さとはかけ離れたものであり、嫌な上司と揉める、グレタ子供が警察の厄介になり呼び出されるストレス程度の辛さはあったようだが、毎日、六時くらいまでには帰宅して家族で夕食を食べていた。同年代のモーレツサラリーマン、とはまったくかけ離れた生活を送っていた。

一方、母親は実家が商売をやっていた為、経済感覚にシビアであった。普段の生活は質素に、必要な時は惜しまず、という暮らしを好んでいた。だから、私は贅沢に育てられてもおらず、むしろ、必要ないことにお金を使うことに罪悪感を感じる。必要な時にこそ、お金は生きるのだ、という母親の教えを守っている。

私は、プータロー気質の父親、シビアな商売人気質の母親の血を受け継いでいる。あくせく働くのは大嫌い、実家に財産があるからどうにでもなる、という甘ったれた性格と共に、地獄の沙汰も金次第、というリアリスティックな感性を持ち合わせている。

そんな私は、特に何かを頑張ることもなく、我慢することもなく、できることはできる、できないことはできない、というある種諦観したような姿勢で物事に臨んでいた為、学業、スポーツ、芸術、何事も中途半端で特出すべきことなどない子供として育っていった。

近いから、という理由で高校を選び、適当に受験して合格した大学に進み、好きだから選んだ学部に進んだ。ーメシが食えるーということなど、一切考えずに進路を選んできたことは、この記事を見ている読者さんたちには衝撃かもしれない。

ようやく働き出す段階で、自分の甘さ、世の中の厳しさを理解して、試行錯誤をしながら市場価値を作ることを考えてきたのだが、根が甘々のボンボン気質の私は、意思を徹底出来たとは言えず、上司と揉めて逃走するように仕事を辞めたり、怒りの告発状をトップに送りつけて大喧嘩したり、と真面目なサラリーマンとはほど遠い生活を送ってきた。

中年になって今までのツケを払わされるかのように、ー我慢ーを常に強いられるような生活を送るようになったのだ。ただ、やはり、ボンボンかつ、シビアな経済感覚を持つ私はお金に関しては恵まれており、これは生まれに感謝する他にない。

障害を持つ子供を持つ親の中には貧困に喘いでおり、貧困からくる無知、機会不平等などから、不幸の連鎖を引き起こしているケースを見ることも少なくない。こういう人たちを見ると、ただただ辛く、泣きそうになる。しかし、他人のことを気にしている暇もないほど、日々の生活は忙しく、自分のことで手一杯だ。

要は、私は強運、不運を併せ持つ人間である。意思は弱く、忍耐力もない。人様に何か言うことなど何もないが、ブログで自分自身を叱咤激励しているうちに相談を受けるようになり、自分が思うことを返答するようになっていた。改めて思うが、烏滸がましい限りである。

これからも、隙を見つけては、自分語りをしていこうと思います。最終的には私小説としてストーリーにしたいですね。私事、という独白は自分の中の感情をまとめる為に使っていきます。

通常記事も併せて書いていきます。

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まさ
1 year ago

私小説が始まる、という記事を読んだ際に、シンさんの半生が成功譚としてが語られるのかなと思っていました。
私の勝手な想像では、生まれに恵まれない地方出身者が、その才覚を武器にしてシンガポールまで出ていって一財産築く、というような、経営者の自伝のみたいな(よくある)ストーリーかなと推測していました。

やられました。びっくりです。言葉が出ません。
この記事の特に進路選択のところのなど、もはや信じたくない気持ちすら抱きました。
これまで私が勝手に持っていたシンさん像を壊されてしまうような。
もしかしたらこの一連の記事はフェイクなのでは、もはやフェイクであってほしいかもしれません。

一方で、依然としてシンさんの言語化する力には卓越したものを感じています。
この点は、この記事の内容に一定の真実が含まれているとすれば、社会に出て揉まれて経験の中で思い至ったものなのでしょうか。だとすると、それはまた稀有な才能だなと思います。
私は勝手にシンさんは10代くらいの時から、人と違うものの見方をされていたのだと思っていました。

すみません、少し気持ちが昂ぶって失礼なことを書いてしまったかもしれません、ご無礼をお許しください。

今後もこのシリーズが続くのであれば、もし気が向けばシンガポールとのつながりについて書いていただけないかと思います。
お名前の由来でもありますし、旧ブログの際もシンガポール、海外の話は多くあったと思うので。

1+
コテツ
1 year ago

生まれの家のこと、よく分かります。
私は分家ですが、祖父母の代から教員、私も父を育てた曾祖母から地元国立大学を卒業し教員になるようよく言われてました。良くも悪くも、守られた職業のおかげで富裕層に近い経済状況、大らかな環境でありました。
進路のことは驚きました。私の勝手な想像では、地元私立伝統校→旧帝大理系と思っていたので、「近いから」「適当に受験して合格した大学」というのが信じられなかったです。イメージで例えるなら、ウンコをもらさなかった山田ルイ53世という感じでした。
私も常々このブログで身の程を自戒していたので、この記事で私と同様の失敗が書いてあり、少しほっとしたのが正直なところです。

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コロナの女王
1 year ago

本質を追究し合理的志向のシンさんがボンボンだったとは驚きました。地主が何代も地主で食うのは世間で言われるほど楽ではないと思いますがいかがですか?教養を大切されているご家庭だし、ご当主が地主の帝王学をしっかり伝えているのでしょう。私の実家も何代か続く小商いもする小豪族だったのですが、父は祖父母に度を越して甘やかされて育ち、悪い奴らに寄って集ってシャブられまくり、イージーモードの人生を崩壊させました。その影響下で私も大人になるまで振り回されてそれなりに波瀾万丈でした。結果、他人に一切期待しない、金こそ正義が染み付いています。シンさんが教員のお父様の元、どの様な家庭環境で育ったのか興味があります。続編を楽しみにお待ちしています。

0
匿名リーマン
1 year ago

すみません、思わずメッセージします。進路は機械電気系とは全く関係ない学部を行かれたのでしょうか?
だとすれば、誰が言ったか、ではなく何を言ったか、を地でいかれた議論なのでしょうか。
それでも世の本質を突いており圧巻の一言ですが…。

3+
L
1 year ago

相談を受けて頂いた内容は今でも覚えています。大変助かりました。

機電に進めというシンさんがどうでもいい学部(哲学とか?)に進学していたとは笑
いくら母親の影響があるとはいえボンボンなのに市場価値を高めること等、今までの記事のような合理的思考力が身についた過程が不思議です。

1+
108
1 year ago

シン様
久々にコメントいたします
『ぬるりと生きる』は私の青春でした
27- 30, 33歳位、ずっと読んでプリントアウトして手元に置いてました
人間として新たな環境に出る時、悩む時、
常に考え方を参照してました

これで良かったというか元々自分にも有った似たような根本的な考えを、
シンさんが言語化して世界の見方を教えていただいていたのかもしれません

シンさんはTwitter とかはしないんですか?
いや、あくまで、このブログがプラットフォームですよね!

3+
NAGO
1 year ago

こちらの記事も衝撃でした。
特にシンさん自身の経歴がブログでの考えと反していて驚きましたが自分自身への咤激励だったんですね。
進学は文系で仕事は証券会社なんじゃないかとブログの経緯から推測しています。ブログのために勉強したというよりあまりにも詳しいので仕事で身に着けた能力と感じております。
文系と推測したのは、理系はある程度ぬるりと生きることが可能なため、あまり本も読まないし勉強もしないのでシンさんのように話が面白くないためです(笑)
またサラリーマン時代の話も記事にして頂けないかと楽しみにしております。
ありがとうございました。
NAGO

4+
つけもの
1 year ago

いいんじゃないですか
結構昔からこのブログを見てましたが、 これだけ理工系を持ち上げるということは
技術系の人ではないよね  と思っていました

1+
いつき
Reply to  シン
1 year ago

私もシン様は理系ではいらっしゃらないと思っておりました。これ程までに社会の様々な事を知って真理を悟っておられるのは、むしろ理系の技術者たちを俯瞰するようなポジション、具体的には金融のようなお仕事で成功されておられるからではないか、と想像しておりました。以前に書き込んだ将棋の例えで言えば、シン様は王将のポジションですね。

一方の私は道路建設の現場のエンジニアをしており、理系の技術職の極致とも言えるポジションにいます。そういった人間からすると、土建は凡人が確実に食い扶持にありつくには間違いのない道ですが、人に勧められるかとなるとかなり微妙です。

荒くれ者の現場作業員のオッサンと一緒に、僻地の寮で生活するのが必須です。職場関係の人間以外とは一切会わない日々が続くので、濃いオヤジの世界に順応出来るかが生死を分けます。実際、私の下の世代でこの仕事が続いた人間はいません。転勤は半年~3年ごとに必須です。地方の県庁所在地に赴任出来たらマシな方、酷い時には町役場でさえ車を1時間は走らせないと行けないような山奥で暮らします。

この特殊な環境のせいなのか、もともとそういった癖の強いオッサンが集まるのかは不明ですが、世間一般的な意味での「幸せな家庭」を持てている奴はまずいません。今は単身赴任だからお互いに快適だが、定年になって再び妻と一緒の生活は考えられない、とぼやいている人もいます。

但しその分収入はそれなりに良いので、本人の気質次第で独身貴族を謳歌することは出来ます。この道に進んだら真っ当な家庭を築くのは諦めた方が良さそうです。

5+
コロナの女王
Reply to  シン
1 year ago

医者になる地主もいますね。
駅近の不動産管理やりながら屋敷の角で細々と開業してたりします。
イージーモード過ぎる人生に飽いたのか、地元への奉仕の精神なのか。
資産は相続で国に奪われるので、息子を医者にするのは合理的ですね。

0
dw
1 year ago

ずっと前に、政治家に立候補もいいかもしれませんって書いていらっしゃったと思うんですけど、あれって実現可能なことだったんですね。

私はシンさんの過去を知っても「そうなんだ」という感想でした。年齢と性別くらいは推察していましたが、それ以外はいい意味でレッテル貼りしてなかったように思います。今回知れてよかったです。今後も自分語り期待しています。

1+
BBA
1 year ago

10年くらい前に東南アジア関連のトピックから偶然このブログを見て、久しぶりに見てみたらまだしぶとく続いていたのですね。その継続力は尊敬に値しますwww

当時は「どうせ自作自演だろ?」とかコメント欄がいろいろ荒らされていましたけど、今はどうでしょうかね?なんかコメント見てみると相変わらず自作自演っぽいですけどwww(物好きなどっかの馬鹿がアンチブログとかやっていませんでしたか?)

シンさんもオッサンになったからか、当時のひねくり曲がった卑屈なイメージが随分薄れた感じですけど根底の部分は相変わらず変わっていないようでwww

シンさんが「”ずっと成功者であり続けてきた人”ではなく”何もしたこともないしみったれたオッサン”だったということに驚きですwww」みたいなコメント(これこそ自作自演?)が見られるが、俺は初めからシンさんが「内側では自分の過去を事あるごとにネチネチ後悔している、外ヅラは感じの良いいつもニコニコしたしみったれたサラリーマン」だということは分かっていたぞwww

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かあちゃん
Reply to  シン
1 year ago

私も詭弁女子覚えてる。懐かしいなぁ。

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tms
1 year ago

こんにちは。7年前の浪人時代に進路に悩んでいるところこのブログを見つけ、以来大学生活や就活で悩んだ時コメントで相談させていただきました。シンさんや読者さんからの助言や思考法は羅針盤のように私の人生の岐路で役立ちました。シンさんが自分とご家族、周りの人間に真剣に向き合い続けてきたからこそ、ブログでも読者に深く刺さる記事や助言を書けるのではないかと思います。これからも記事を楽しみにしてます。

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