今回はスプリント、アメリカ通信業への殴り込みについて書こうと思います。
市場
現在、アメリカ通信業は元々は同じ所、ベルに源流のあるVerizon、AT&Tの二強、それに弱小がくっついたT-mobile、Sprintが続いていきます。ソフトバンクが買ったのはSprintです。業界の宿命として設備投資の為に巨額の借り入れがあり、ソフトバンクが買った当時は赤字を垂れ流していました。それをT-Mobilと一緒になって三強体制にしようとしたわけです。
オバマ政権は通信事業という社会インフラが寡占化することで、国民の負担が増えることを嫌って合併に難色を示して、孫正義氏の野望を打ち砕いたのですが、トランプ政権は内諾をしていて、T-mobileと折り合えたら当局の承認は取れそうになっています。
T-mobileとしてもSprintとの合併に反対しているわけではなく、その条件に折り合えないだけで、将来的に合併しないと、辛くなってくることは理解しており、早く合併したいなぁ、とは思ってます。前の交渉破談でも、喧嘩別れではないし、お互いにいつでも交渉再開の意思があることを両CEOは明言してます。
ただし、トランプ政権にAT&T のタイムワーナー買収が否決されており、このままだと、せっかく取り付けた内諾がひっくり返る可能性があるので、誰がどう見ても早くした方が良いのですが、孫正義氏は納得してないので何度も破談になっています。SprintのCEOは those of you know who know Masa – you can never say forever と言ってます。孫正義氏はいきなり話が変わる人だ、と言うことです。
野望
合併さえできれば、両社は設備投資を節約できて、相乗効果を発揮することは間違いなく、どんな形であってもソフトバンクが損をすることはありません。というのもソフトバンクがSprintを買ったときは日本では民主党政権による円高誘導でバーゲンセールになっており、為替だけでも得しているからです。
仮に孫正義氏がT-mobile に全面降伏しても、最悪で取得価格になるでしょうし、一般的なやり方で時価に合併で得られるだろう利益を乗せてSprint株をT-mobileに明け渡しても、数千億円はプラスになりますし、ここらで手を打っとけや、と言うのが大方の見方なんですが、孫正義氏は納得してません。経営権を手放したくないんです。
T-mobile の方がSprintより時価総額が倍以上なので、株式交換による合併だと、ソフトバンクの持分は小さくなり、連結対象から外れます。それは孫正義氏は嫌だし、T-mobileの親会社である、Deutsche Telekom も連結から外したくないので、なかなか折り合えません。
特殊な契約で、ソフトバンクが後で持分を増やすことができるとか、何かしらの経営権を得るとか、そういう形で折り合えないのか?を探っているのですが、孫正義氏は今のところ納得はしてません。会談は孫正義氏の東京の自宅でやっているくらいなので、彼が納得すれば、話は終わりでしょう。
決着
今月、2018/4に合併交渉が再スタートしたらしく、いい加減、何かしらの形で決着するだろう、と見られています。これ以上放置すると、2020年にアメリカ大統領選挙があり、徐々にホワイトハウスは忙しくなってきて、認可が後回しになる。トランプ大統領が負けたら、白紙に戻ってしまうからです。
更に5Gの電波使用領域を入札が11月に始まるので、ここまでに合併するなら合意してないと、また、合併交渉が中断になってしまいます。ここ数ヶ月で決着させないと、次世代通信システムに向けての準備が出来なくなってしまいます。
孫正義氏が折れるのか?ドイツサイドが折れるのか?折衷案に持ち込むのか?なんとも言えませんが、こういうケースで孫正義氏が折れた記憶がなく、バカ高いオファーをしてでも買って来てしまうのが孫正義氏のやり方です。
となると、更なる借金ということになりますが、ソフトバンクの通信部門を切り離して上場、ARMの再上場をすることで、2-3兆円は作れるでしょう。あとは来年に予定されるUberの上場で一部利確するとか、ウォールマートに買われたインド、Flipkartの持分を売るか?とかでしょうか?
社債はすでに格付け会社のレーティングが低すぎて更なる発行は難しく、借り換え発行以外はちょっとなぁ、という感じですし、日本の銀行ももういっぱいいっぱいだろうと思いますが、安倍政権でジャブジャブ流れた資金を強引に引っ張ってくるのかもしれません。日銀が日経平均のETFを買っているくらいなので、今の政策が続くならセーフかもしれませんね。
T-mobileが5兆円くらいなので、なんとか3兆円くらい現ナマを用意して、あとは株式交換でパートナーシップは継続する、というのなら購入価格でかなり譲歩をすれば、もしかしたら、ソフトバンクの経営権を維持した合併に持ち込めるのかもしれません。
まとめ
これほどスケールの大きい話の中心にいるのが、孫正義氏であり、日本の影響力低下もなんのその、一人の力で市場を変えていってます。実際、PE投資の勢力図は一人で変えてしまいました。アメリカの通信インフラを強奪して、IoT時代のプラットフォームを占拠できるのか?というステージです。
これが成功したら、ARMの半導体設計力、Nvidiaの画像処理、Uberの自動運転、配車サービスにNautoが繋がり、OneWebの衛星通信で安定した通信で提供、Boston Dynamicsのロボットがハードを製造し、 Cyberreasonがセキュリティを守ります。Sofiで学資ローンを借りて、WeWorkのオフィスで働き、Slackで報告します。お金が足りなきゃ、Kabaggeで借ります。
まぁ、全部成功したら、完全にIT帝国ですよ。孫正義氏のホラが実現して、時価総額は20兆どころか、200兆を超え、世界のソフトバンクになるでしょうね。ここまで清々しいホラを吹きまくって、大体実現してきた男に騙されたら本望かもしれませんw
シンさんの説明は、本当にわかりやすくて助かります。
アメリカの通信インフラの第三極って、日本でのdocomo, auに並ぶソフトバンクと同じ会社を持つってことですもんね。
ギャンブルも投資も、常に全力買いだといつか負けるので、引き際が肝心だとは思っていますが、彼がどこまでやっていけるか見てみたいです。ちなみに、秀吉も朝鮮出兵は引き際もしくは進め方を間違えた結果かなと思っています。
アメリカで第3極になる、と言うことは世界最大の市場で莫大な利益を上げる企業を手中に収めるだけでなく、通信インフラを抑え、来たらIoTのプラットフォームを抑えると言うことなので、この合併の意義は極めて大きいです。
もう時間切れは近いので、どんなやり方で孫正義氏がこの話を着地させるのか?は本当に興味深いです。我々を興奮させるようなディールを決めてくれると信じてます。
シン
国内の携帯キャリアがキャンペーンなどで必死に内需の囲い込みをやっているのと対極ですね。見据えているスケールの大きさに感服します。右肩下がりの日本だからこそ、強いものに挑んでいく攻めの姿勢や野心の持ちようなど、孫氏から見習うべき点は多いと思います。
大変無責任な物言いになりますが、三十代以下の若手は、右肩下がりの日本だらこそ、言いたいことやりたいことがあるならば、上の目を気にせずに思い切りやってしまっても良いT思います。我慢してしがみついても暗い未来しかないのなら、我慢せず思い切ってやってしまった方が後悔が無いでしょう。確固たる信念があれば、負けても付いてきてくれる人は少なからずいるはずです。しかし他人の目を気にして、周囲に迎合して、既得権益のおこぼれに預かっても、その既得権益を失った時点で人は離れていくし、誰一人として最後まで自分の下に残ってくれないかもしれません。
>右肩下がりの日本だからこそ、強いものに挑んでいく攻めの姿勢や野心の持ちようなど、孫氏から見習うべき点は多いと思います。
ドットコムバブルが弾けた時、孫正義氏はこういう時に下を向くな、こういう時に攻めるべきだ、と言い切ってましたが、今も全く同じで、日本が衰退するなら、成長市場にリスクをとって攻め上がるしかないでしょう?という単純明快、かつ、困難極まりないことを実践しているわけです。
サラリーマンだって、終身雇用が崩れて誰も守ってくれない、というなら、テーマを持って何かを攻めて自分で自分の身を守るしかないのでは?とは思います。
シン
確かに、孫氏の野望は、日本企業としては世界に目を向けているものであり、がんばってほしいところです。
ところでアメリカの通信に関しては、今ではT-Moible はVerizon, AT&T を抜く勢いでユーザー数をここ数年でかなり増やしてきて、実情は T-mobile, Verizon, AT&Tの3強です。これに次ぐのは、最近はCricket (AT&T参加の子会社), MetroPCS等で、Sprint は今では見る影もありません。
私自身、モバイルのキャリアは最初はVerizon と契約していましたが、途中でT-Mobile に乗り換えました。
理由はT-Mobile だけが当初 Unlimited Data Plan 契約があり、その割には格安だったからです。
データ無制限使い放題という売りが成功したのか、T-Mobile はその後、店舗数が格段に増えて、今ではVerizon, AT&T より遥かに多いし、カスタマーサービスも充実しています。(もちろんオンラインでも)
テザリングも10G/Month. 10G超えたら 520Mbps くらいまで落ちますが、使えて便利です。
なので、すでにSprintを買収? と聞いて驚いています。
負け戦に参戦してませんか?孫さん、大丈夫?という感じです。
あと、5Gに関しては、将来性としてはどうなんだろう?というのが正直なところです。
アメリカは通勤専用公共バスや、ファストフード、カフェ(スタバ含む)、モールの中、ホテル、一部レストラン等、フリーWifi は当たり前ですからね。日本に帰国すると、公共で使えるWifi が少ないのに辟易します。
それに自身のT-Mobile プランでは、数十カ国(日本も含まれます)アメリカ国外でも、追加課金なしで、通話、メッセージング、データ等が使えます。これで家族3人で月々$140 なので、コスパは悪くないと思っています。
正直、2020年の東京オリンピックにしても、もっとWifi 通信インフラを整えないと、外国人からブーイング食らうと思います。私の息子も以前は日本に行くのを楽しみにしていましたが、今はWifi が繋がるところが少ない、繋がっても遅い!ネットが出来ないのでは話にならないと、日本に行きたがりません(苦笑) 。
ちょっと前の日本の記事で孫氏が、日本で公共Wifi 使用は課金するべきと発言したのには悪い意味で驚きました。
これでは外国人観光客の足は遠のくばかりでしょう。
というより、日本は先進国であるというイメージからどんどんはずされていくんじゃないかと思いました。
すいません、よく調べてみたら、US全体ではVerizon, AT&T, T-Mobileに続きSprint はまだ4位でした。
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_United_States_wireless_communications_service_providers
記事に書いたつもりですが、伝わっていなかったみたいですね。孫さんもスプリント単独で生き残れるとは思ってないし、スプリント買収はT-mobileとの合併への布石であり、本命は弱者連合による第三極化です。スプリントを買って、T-mobileに手を付けようとしていたら、オバマ大統領に止められて、万事休す、という状態になり、スプリントの再建に取り組んで一定の成果を上げましたが、その間にかりりんさんが言うようにT-mobileのほうがよくなってしまい、トランプ大統領に合併の内諾を得ても、条件闘争が難しくなってしまった、というのが現状です。T-mobileも合併の旨味は良く知っているので合併したいが、親会社のドイツテレコムが連結から外すような合併はしたくないし、孫さんも連結にならない合併では野望が道半ばになる、と考えているので、何度も話し合い、そして、決裂していますが、恐らく今年折り合わないと、合併のチャンスはなくなるので何かしらの形で折り合うのでは?と思います。
5GはWifiに近いもので、近距離、制限付きで高速通信可能、ということらしいので、都市部だけに普及するもので全国で使えるようなものではなさそうですね。日本のFree Wifiの少なさは呆れかえるくらいですが、徐々に増えつつあり、自治体も援助しているみたいですね。東京オリンピックまでに集中的に増やしてほしいものです。
>ちょっと前の日本の記事で孫氏が、日本で公共Wifi 使用は課金するべきと発言したのには悪い意味で驚きました。
これはかなりの悪評でしたね。海外旅行のローミング代が割と利益になっているからなのかもしれません。記事にもあるように良くも悪くも話が変わる人なので、公共Wifiがメリットになると判断したら、即前言撤回して大規模投資に入る人でもあります。そういう点で意固地になって本筋からそれる人ではないですね。
シン
シンさんの記事をちゃんと時間をかけて読むべきでした。
この場を借りて、反省いたします。
にも関わらず、丁寧なご返信ありがとうございます!
とてもよく分かりやすい、解説 感謝します!
いずれにせよ、孫氏は将来性をグローバルに見据える数少ない日本の投資家ということになりますね。
がんばってほしいです!
いえいえ。
スプリント、T-mobileは合併への最終ステージに来て、来週にも決まりそう、という感じですが、前回も直前で孫正義氏はひっくり返しているので、さてどうか?と言うところです。
シン
とても興味深い記事でした。ありがとうございます。
スプリント買収について、大前研一さんは広大なアメリカの設備投資にかかるコストから否を表明していました。
孫さんは、そんなこと百も承知でアメリカの市場に殴り込んだんですね。スケールがでかすぎて凡人の私には理解できないです。
連載記事にもある通り、インフラのプラットフォームを手中に納めるためには必要な投資だったんですね。しかし、四年ほど前にこれを夢見て行動を起こしてたとは、恐るべしです。
凡人が考えるようなことは百も承知で乗り込んだわけで、計画を含めたら5年以上前からアメリカの通信インフラを抑えることでIoTの覇者になる、という構想を立て、弱者連合を形成する為の布石としてスプリントを買っているのですから、とんでもない巨人ですよ。
シン