じゃあ、項羽、劉邦、韓信

秦の始皇帝が没した後に現れた英雄について書きたいと思います。

項羽

この人は激情の人であり、韓信に「匹夫の勇、婦人の仁」と言われています。だから、項羽には天下は取れないし、劉邦が天下を取りたいなら彼と逆の態度を取れ、と言ってます。むやみに前に行かず、ジメジメせず、カラッと鷹揚とした態度で、分け前をケチケチするな、と言うことです。

項羽は武勇に優れ、自ら先頭に立って戦います。それは良いことなんですが、いつも先頭に立つと何でもかんでも自分でやりたがり、部下を育てないし、万が一トップが討たれたらどうするのか?という危険もあります。これが匹夫の勇です。

また、彼は相手が弱者だと見做すと、ものすごく優しくなり、あれこれと世話しますが、そうでないと途端に冷たくなります。また、部下に対して恩賞の出し惜しみをするので、部下に不満がたまりやすく、信頼関係が産まれません。これが婦人の仁とされます。

最後は「四面楚歌」の故事のように最期にはほとんどの身内に裏切られて、元味方に包囲されて討ち取られる、ということになります。この手のタイプが天下を取れることは少なく、取っても短期政権になりがちです。

劉邦

この人は田舎のゴロツキみたいな人ですが、どことなく親分の風格があり、色んな仲間が集まってくるタイプです。中国人はこのタイプが好きで、大人の雰囲気がある、といいます。現代だと先頃、引退を表明したアリババ、馬雲氏が近いのかもしれません。

本人はさほどの目立った能力はなくとも、自然と優秀な人間が周りに集まって来て、神輿として大きな仕事を成し遂げます。アリババは馬雲のワンマン企業ではなく、十人を超える創業メンバーとの共同作業でした。その辺は孫正義氏の個性だけでやってきたソフトバンクと違いますね。

この手の人は気前が良くて、分け前をさほど惜しまず、過去の経緯をとやかく言わないし、素直に人の話を聞くので、後ろめたい経歴の人、ハッキリとした実績がない人も抜擢する為、色んな人が集まってきます。

ゴロツキ仲間だけでなく、蕭何、曹参などの元役人も仲間にいるし、他国の宰相である張良、元敵の英布、彭越もついてくるし、何の実績もない天才、韓信も抜擢するんですよね。これは項羽には出来ないことです。器がデカイので色んな人を飲み込めるのです。

大陸的というか、島国、日本にはこういうタイプは少なく、薩摩人は西郷隆盛を代表とする鷹揚な人を好みますが、西郷隆盛は切れすぎるのを上手く隠しているだけで、切れ者ですし、空っぽの器に他人を入れているだけでもないですね。

韓信

軍事の天才だけど、政治は疎くて、人の感情の機敏はわからない人です。アスペルガーという奴なのでしょう。ゴロツキに絡まれて、面倒だからあっさりと股を潜ってしまうくらい、あっさりとした性格です。普通の人なら激昂するでしょう。

興味の範囲が自分の才能を発揮することに限定されているので、才能を最大限に発揮していまい、それが自殺行為になります。手柄が大きすぎると、主君から疎まれるのは誰でも分かることですが、天才が故にその辺の感情が欠落しているのでしょう。

本体の漢から遠く離れた斉で独立軍を有すなら、しつこいくらいに漢に知らせ、貢物を送ったり、媚びたりしながら野心がないことを示す必要がありますが、それもせず、無邪気に恩賞を求めて斉王にしてくれ、と言ってしまうのだから子供みたいなものです。

日本だと源義経がそれに当たりますが、大手柄は主君に譲る形にするか、一定地点で叛旗を翻すしかありません。韓信は斉、義経は西国を落とした時点から徹底的に中央に媚びるか、どんな指令が出ようが、独立軍として中央には戻るべきではなかったのでしょう。

天才過ぎると、天寿を全うすることが出来ない、晩年まで幸せに暮らすことは出来ないことが多いのは余りにも何かが突出すると、その分だけ歪になるからなんでしょうね。アスペルガーが能力の割に評価されないのは歪な能力は反感を買いやすいからなのかもしれません。

まとめ

有能な人って言うのは割とたくさんいるんですけど、ケチ、政治に無頓着だと、後ろから刺されてしまうんですよ。世の中で何よりも怖いのは人間の「心」であり、時として利害関係を越えた感情が勝敗を決めます。だから、気前良くして、相手を立てるべきなんですね。

特に仕事だと、好き嫌いで一緒にいるわけではなく、お金の為、生活の為に一緒にいるわけです。だから、部下を懐かせたきゃ、折を見て飯に連れて行き、少額を奢ってやったり、小遣いやってストレス発散をさせたりすべきですし、成果を出したら、相応の評価をすべきです。

逆に部下であるなら、小さなことでもチョコチョコと上司に報告したり、大手柄は上司に譲ってあげたりしないと、不安感が煽られて、無実の罪で誅殺されてしまうわけです。何やっているのかわからないが、手柄を立てる部下なんて鬱陶しいだけです。

単に天才だから勝てるわけでないのが世の中の面白いところです。単に才能だけで勝敗が決するなら、劉邦は早い段階で脱落、項羽、韓信の一騎打ちになり、単なる戦の強さなら韓信に敵うわけありません。この辺りが人間社会の機敏ですね。

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どなるど
6 years ago

故事シリーズ好きです。
昨年のポストだったと記憶してる鶏肋は大好きです。多少の脚色はあるにせよ、中国の歴史は奥深いですね。
故事ですが、テクノロジーが発達しても人間の本質は変わっていないので、真理を見つけ、自分の人生に役立てていきたいものです。

ところで、記事中に西郷隆盛さんに触れられていましたが、どういうところが切れすぎるのをうまく隠しているように感じたのでしょうか。
西郷さんは日本でもあまり見ない英雄で個人的に調べている人物で、気になりました。

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ニコ
6 years ago

久しぶりに歴史ですね。
劉邦が前漢を建国しましたが、秦の始皇帝が作ったシステムをうまく運用して国家を運用したんですよね。
劉邦自身に政治システムを作る能力がないと思います。

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