最近、私は私小説が好きです。
私小説
私小説は日本文学の一時代を築いたわけですが、W村上が登場する頃には一線級の書き手がほとんどいなくなりました。二十一世紀に入ってから一線級といえる私小説家は西村賢太さんくらいしか現れていません。私小説は死に絶える寸前の絶滅の危機が懸念されるジャンルで、本が売れない時代においても、更にマイナージャンルです。
私小説とは、自分の恥部を徹底的に書ききってしまうものであり、そこに体裁を繕うような部分が見え隠れすると嘘くさくなり、一気につまらなくなるので、文学といえるほどのレベルに持っていこうとすると、徹底的に自分の恥部と向き合って、書ききる必要があるのでかなり大変です。
西村さん曰く、その恥ずかしさを消化するには時間が必要で、あまりにも新鮮な記憶では単に刺々しいだけで面白くないから、過去の思い出が客観的になるくらいの間合いが必要だとのことですが、そりゃ、そうだろうな、と思います。中二病時代の黒歴史をぶちまけるなんて、かなりの時間が要ります。
自然と私小説家の精神状態がおかしくなりやすく、有名どころだと太宰治が自殺していますが、私小説を書く人は葛西善蔵、嘉村礒多といった奇人狂人のレベルであり、絶滅寸前の今を生きる私小説家の西村賢太さんもメチャクチャです。西村さんは愛情乞食と表現しますが、究極のかまってちゃんでないと、この分野で一芸を成せません。
自分語り
自分語りをすることは簡単なんですよ。概略として自分の人生を語れば、それなりには面白いです。それなりに変わったことをした人が自伝をきちんと書くなら、評価の対象にはなります。事実なのでリアリティーがありますし、入り込むような描写もあるでしょう。
でも、そこから先につなげられるのか?と言うのが芸になるのかどうかの境目であり、私小説でないにしろ、自分のことを書いた小説でデビューした人の多くが処女作が最高、後はどんどんつまらなくなっていく、という感じですね。そして、同じような話が延々と続いていき、どんどんうざくなっていきます。
「夫のXんぽが入らない」とかインパクトある題名で実話なら売れるに決まってると思うんですけど、そういうのは私小説でもなんでもなく、続けられない一発限りの大花火になってしまいます。それを継続できるなら、凄いですけど、それ以上のインパクトは二度と出せないのに、作品の面白さを継続させられるなら私小説になるでしょう。
多くのブログが自分語りなんですけど、素人のブログで自伝みたいな記事はそこそこ面白いんですよ。むしろ、そこしか面白くない、と言ってもいいかもしれません。だったら、そこを掘りまくって金脈に到達するならいいんですが、それは恥部を完全にさらけ出さなければ成らないので、ほとんどの人間には出来ないといえます。
私もたまたま立ち寄ったブログで管理人の自分語りを見ますけど、普通に学校出て、異性と付き合い、結婚して、たまにケンカするみたいな自分語りも一回だけさらっと読むだけなら面白いと思います。実際、ぬるりと生きるでも、「じゃあ、始めに」はいつも多少のPVがありますが、こいつの経歴を見とくか、という感じなんでしょう。
ぬるり
元々、私は私小説がそこそこ好きだったんですけど、最近、西村賢太さんにドハマリしてしまいました。自分自身もゴミみたいなブロガーなので文章を書いているわけです。明らかにクソ小説も売ったこともあります。そして、西村さんの作品を読んで私は小説を舐めているな、と気が付いて恥ずかしくて仕方なくなりました。
雑記ブログとして色んなことをゴチャゴチャと書いていくなら、それはそれでいいんでしょうが、ストーリーとして文章を書いていくなら、自分の書きたいこと、ぬるり流を確立しないと何にも面白くないなぁ、と思ってきたんですね。味のないストーリーなんて芸でもなんでもないです。
そうなると、書けなくなるわけです。今思っているのは、私がやるなら本質的なことをネチッコク、ぐろいくらいにほじり尽くしていくようなものが「ぬるりらしさ」なのかな?と思います。それが見つからないので困っていますが、一人一揆を本当の意味で書ききることからはじめようと思っています。
私は私小説は書きたくないんです。どれだけ努力しても太宰どころか、西村さんにも遠く及ばないだろうし、それはジャンルとしてやりつくされているので、西村さんみたいに敢えて過去の作家を徹底的に私淑して、温故知新を現代でやるようなことしないと面白くないな、と思います。
女私小説家
でも、女性の私小説家って凄い人はいないので、女性読者さんで小説を書いてみたい人は書いてみるといいんじゃないかな?、と思います。女性の私小説家というジャンルに入る作家って、文体から世間体、体裁が見え隠れして全然面白くないんです。キレイに、キレイに書こうとします。まあ、普段から化粧をする人たちなので当たり前だと思います。
だから、西村さんがソープ嬢に入れ込んで、お金をむしりとられた怒り、悔しさ、情けなさ、八つ当たり、呆然、友達だと思っていた人間から冷笑を受ける、という辛さ、鬼気迫って書ききるようなことを女性がしたら芥川賞を取れると思います。本当に誰かにやってもらいたいです。私は全力で応援しますね。
それは「まんしゅうきXこ」だとか、「ぱいぱXでかみ」みたいなあからさまな下ネタで目立とうとするようなダサいことではないんです。「こんな強烈な芸名だけど、結構あたし、キレイでしょ?w」というようなチンケなナルシシズムはまったく必要ないです。そういうのはメスを使った枕営業の一種みたいなものです。
本名、せいぜい普通のペンネームで「不細工なオバサンがどうしてもかまって欲しくて出会い系で男をあさって、男に騙されてお金をむしりとられる。」というテーマでそのやるせない憤怒をぶちまけるような作品が読みたいですね。同じ女性が自分の闇をえぐられるような小説が読みたいです。
私は付き合っている女性の親からお金を借りる、返さない、些細なことに因縁つけてDV、あげく肋骨折るほど蹴り上げる、顔面にグーパンチねじ込んで歯を折る、とかしたことないですが、自分の狂気をえぐられるようななにかが西村小説にはありますね。そういうのを女性がやったら新しいです。
まとめ
今更、西村賢太かよw、と思っている読者さんに言いますよ。「苦役列車」は西村作品の中では面白くないほうです。私も彼が芥川賞取った時に苦役列車だけを読んで彼を過小評価していました。ふとしたことから、「秋恵シリーズ」を知ってから認識が変わりましたね。男性は心の奥に狂気があり、それが抉り出されるくらい素晴らしいです。
芸達者の森山未来さんで映画化したそうですが、元から西村作品の中ではつまらない方なので、作者の西村さんもイマイチというのはわかります。寛多は屈折しきった中卒のプータローをオーディションで抜擢するくらいでないと面白くならなかったと思います。森山さんって若くして成功した人なので屈折感が出るわけないです。
ともかく、西村作品は苦役列車で判断してはダメだ!っと声を大事にして言いたいと思います。まず、暗渠の宿でソープ嬢に虎の子を取られたり、自分の女に全面的に愛して欲しいという甘えきった気持ちから強烈にDVする狂気を味わうといいと思います。
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西村賢太さんって報道陣の前で賞金の使い道を風俗と述べた人でしたっけ?
ただ者じゃないと思いますし、あのコメントでちょっと本を読んでみたくなりました。
小説家ってシンさんの指摘されてるように壊れる人多いですね。
正確に言うと、芥川賞の受賞会見で連絡がこないので、風俗に行こうとしていました、と答えました。これも受け狙いではなく、本人の説明をよく聞くと理解できる心情なんですが、このインパクトが彼の一般イメージになってしまいましたね。
シン
エッセイ→ノンフィクション
私小説→自分の体験をモデルにしたフィクション小説
という理解であってましたか?
私小説は読んだことがないので分かりませんが、エッセイは好きです。その人の人間性や面白さが出ます。逆に、エッセイが面白くない人は人間的に面白くないのだなと思ってしまいますね。
超有名どころで恐縮ですが、さくらももこの、もものかんづめや、東野圭吾のあのころ僕らはアホでした、が最高に面白いです。逆に面白くなかったのは、浅井リョウの、時をかけるゆとりですかねー。
だいたいそんなところだと思います。エッセイ、私小説は本人が面白いというより、どれだけ恥を吐き出せるか?にかかって来るのでカッコつけたがる人のエッセイはつまらないです。例えば、私は黒木亮の小説は好きですが、エッセイはつまらなさすぎて数ページで読むのをやめました。俳優並みにかっこい人が徹底的にカッコつけるならともかく、普通に冴えないおっさんが中途半端にカッコつけるとキモいんですよね。
さくらももこさんの面白さはブッチャケ具合で、女性が水虫になって緑茶の出がらしを試す、とか、飲尿健康法を試したとかなかなかブッチャケられないから面白いです。これが元夫との激しい離婚闘争を描き切ったら私小説になるんでしょうが、やらないでしょうね。
だから、リアルでは友達に言えないようなことを平然と面白おかしく描くなり、狂気みたいな性癖、悪癖、心情の吐露をやり切らないとつまらない自分語りになります。一回概略を聞いたら、それ以上はお腹いっぱい、という感じですね。
シン
私も以前、ブログでランキング上位になり、本を出さないかと言われ、いい気になったことがありました。締めの一言は「乳搾りして寝るか」ですw
顔出し条件の出版だったので、田舎のサラリーマンには、そこまでやれませんでした。結局、書くか死ぬかぐらいの状況じゃないと突き抜けた文章って書けないのでしょうね。どこか、余裕があるとそこを読者は見透かすのでしょうね。
俺はシンさんの素人とは思えないキレのある分析力にいつもやられてますよ。
ルシさんは人気ブロガーなんですね。確かに顔出し出版すれば職場バレする可能性があるので嫌ですね。文章書く以外のことはしたくない。それ以外のことは生活の為に最低限するだけ、という覚悟を持った人でないと顔出しは無理ですね。そこまでの覚悟がないと突き抜けない、というのはあります。
私は顔出しを絶対したくないので突き抜けるのは無理だし、だからこそ、突き抜けた人の文章は憧れますね。
>俺はシンさんの素人とは思えないキレのある分析力にいつもやられてますよ。
ぬるりくらいの本音トークを顔出し、本名でやれるだけの覚悟があれば、プロになれるのかもしれませんね。楽しみたいだけなので、素人で十分ですけどw
シン
シンさん、お返事感謝です。人気ブロガーだったのは過去の話です。結局、自分語りをし過ぎて、身バレしそうになったので、手仕舞いしました。
シンさんも、くれぐれもお気をつけくださいまし。
身バレ覚悟でプロになるつもりでやるならともかく、遊びで身バレは面倒だし、自分語りは危険ですね。
私は自分語りが元々好きではないので大丈夫だと思いますが、気をつけます!お気遣いありがとうございます。
シン
秋恵シリーズ、読んでみました。シリーズ内でも、かなりグッとくる当たり回と、そうでもない回が、混在している印象です。何でもそうですが、書き手も読み手も、ある程度数をこなさないと、良い出会いはないなと、改めて思わされました。
さすが、ナマケモノさん!、他のぬるり読者さんがスルーすることに食いついてくださります。私小説は特にムラがあり、苦役列車なんて面白くないですからね。芥川賞取ってからもそんなに面白くないです。
シン
育ちや品がある人には自分とはあまりに違う価値観で西村さんの作品が面白く感じるのかも知れませんが、西村さんに近いタイプだと何が面白いのか理解出来ないのではないでしょうか?私は後者のタイプなのであまり面白く有りませんでした。
確かにそれはあるかもしれません。西村さんと私ではカスリもしないくらい人生の歩みが違うから面白く感じるのかもしれませんね。西村さんに割と近い人生を歩んでいる人には今更だったり、煩さを感じるのかもしれません。
言われてみれば、自分自身を思い返すと、自身に近い経歴の作家は近親憎悪もあり毛嫌いする傾向があり、縋り付きたくなるくらい同じか?全く違う作品を好むものですね。バカなくせに偉そうな人が嫌いなのは私がそうだからなのでしょうw
シン
例えば、太宰治の元金持ちの没落貴族・選民思想も苦手ですし、現代作家では、伊坂幸太郎作品のチャラいけど実は切れ者キャラも嫌いだし、村上春樹のとにかくモテ男というのも好きではありません。
この趣向が、近親憎悪だとすると、自分はなんて自惚れなんだと、非常に恥ずかしいですね。(実際は金持ちでも切れ者でもモテ男でもないので、尚更恥ずかしいです)
ナマケモノさんはお金持ち、切れ者、モテると思いますね。第3版からの読者さんが有料リクエストの初購入者になるとは思ってませんでした。気前のいい人だと思います。コメントも切れてますし、異性にモテそうです。
シン